奈良は吉野山の近くに生まれ住んでいたという大正生まれのご婦人からおもしろいお話をうかがうことができた。
その町か村かには、いつもたぬきやきつねが出てきて、誰彼かまわず人をだますので、そこに住む人はだまされないようにいつも注意を怠らなかったという。
だまされた人は、手足がしびれてしまい、その動きを自分でコントロールできなくなって、いつもならやらないようなことを、発作的にやってしまうのだ。
たぬきやきつねがどうやって人をだますのかというと、尻尾をつかうのだそうだ。尻尾の先から、人の目には見えない”光線”を出して、その光線に当たってしまうと人はだまされるのだ。
ご婦人は、自身も何度もだまされてしびれたことがあったと言いながら、あなたも気をつけなさいよ、という顔をした。
こういう話を聞いて、安易に精神分析的な解釈をしてはいけないな、といつも思う。話をそのまま受け入れる方が、それを聞く者の世界が豊かになるような気がするからだ。それにおもしろくなる。
ぼくもしびれないように気をつけよう。