ぼくが今勤めている介護施設には2010年からお世話になっている。
だからもう15年目に入っているのか。
考えてみればこの「ぼく」がひとつの組織に15年近くもいるなんて、いや、いられるなんて、振り返ってみればすごいことだと思う。
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かつて東京でやさぐれていたとき、さる会社の取締役をされている方とその奥様も一緒に、結構仲良くさせていただいていた。その方から「うちの会社で働いてみないか?」と誘われたことがあった。「営業なんておまえにおあつらえだと思うが?」と言われた。すぐさまぼくは「いえ。ぼくは会社のような組織には似つかわしくありません」とお断りした。すると隣でそんなやりとりを聞いておられた奥様が「そんなことないと思うけどねえ」と小さく呟いておられた。
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自分で思う自分と、他人が思う自分には、ちょっとした違いというか、異なるところがあるようだ。
当時のぼくは自分のことを、社会のアウトサイダーでアウトロー的な存在だと思い、そうした自分にずいぶんとロマンティックなイメージを抱いていたように思う。
だからよく考えもせず、せっかくまともな形で社会と関われそうな機会をむべもなく断ったのだ。むしろ、なに言ってんのこの人、わかってないなあ、ぐらいに思っていたはずだ。
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そんなぼくのなんとなくの自分のイメージは、その後もずっと続いている。
阿佐田哲也や森巣博の作品をもれなくなんども読んでいた。
そうやって自分のイメージを維持していたのだろう。
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でもそんなぼくが、ある日突然、介護の仕事をするようになった。
青天の霹靂というべきか。
そしてその日から、最初のところが3年と3ヶ月、そして今のところが14年と5ヶ月、合わせて17年と8ヶ月もこの職種に携わっているのだ。しかもここ5年は企画室という部署をあてがわれ、そこで音楽会の実施や町内会など地域の方々との関係づくりをもっぱらにやらせていただいている。
かつて東京で言われたことばが蘇る。
「営業なんかおまえにおあつらえ向きだ」
「(組織が似合わないなんて)そんなことないと思うけどねえ」
あのことばは正確に「ぼく」のどこかを言い当てていたのだ。自分では思いもしていなかった「ぼく」のことを。
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そんな今の勤めも来年1月15日で終える予定になっている。まったく関係しなくなるわけではないので、終えるというよりも、勤務の仕方が変わる、と言う方が正しい。
一方で友人のやっている会社のお世話にもなるつもりだ。
そこは介護とはまったく異なる職種の組織で、あれやこれや、とてもおもしろいことができるのではないかと思っている。